裏切られた…!


それだけだった。

溢れてくる感情は、突き詰めれば全てそこへ行き着く。




裏切られた…!


それは、深く、深く彼女の胸に突き刺さった。














走りながら、彼女は思う。


本当は、裏切られたというほどの事ではないのかも知れない。

だけど、とてもショックだった。


今まで、ずっと仲良しだと思っていた人が、自分の悪口を言っていた。

良くあること…そうだと思う。


だけど、実際その現場を目にするのは…

言葉に出来ないほど苦しかった。


それが寂しいわけではなかった。

ただ、息がつまって、苦しくて。


頭に浮かぶのは、裏切られたという思いだけ。

めまぐるしく世界が回って、気づくと、彼女はそこから逃げ出していた。





なんで、こうなっちゃったんだろう。


考えてみても、よくは分からなかった。

それでも唯一つ、少しだけ引っ掛かったことがあった。

あの子はホグワーツでも、2,3を争う秀才だった。

それでも、どんなに頑張っても一番にはなれない。


何故ならば…

がいたから。


どんなに彼女が努力しても、

が主席の座を明け渡したことは一度もない。


もしかしたら、妬み?それぐらいしか、彼女との亀裂は思い浮かばなかった。


『あぁ、?あの子本当はバカよ、

どうせ先生に媚売っていい点貰ってるだけだわ。』



冷たく吐き捨てたその子の顔が、まぶたをよぎる。



そんなことしてない!

本当はそう叫びたかった。


どうしてそうしなかったのかと少し後悔している。

でもそんなことをすれば彼女との関係はもろくも崩れ去るだろう。


しかしそれがどうしたというのか?彼女は私を裏切ったんじゃないの?

それでも、むざむざ自分からその関係を壊すなんてことは出来なかった。



意気地なしめ…!


自分で自分が腹立たしいやら情けないやらで、

もう色々な感情がごちゃごちゃで、

今の彼女は張り詰めた糸のようだった。



前を見ずに角を曲がったところで、

誰かに思いっきり顔をぶつけた。


「あ、ごめんなさ…」


ふと見上げると、それは、天敵である、

ジェームズ・ポッターだった。


最悪だ。信じられない。


友達の悪口の次はジェームズ・ポッターにぶつかるだなんて!


どうして今日はこんなにも運が悪いんだろう。


最悪だ。信じられない。




そう思ったら、

張り詰めていた糸が、ぷつん、と、小さな音を立てて、切れた。




気づくと、涙が次々流れ出していた。

ジェームズは困った顔でそんなを見ていた。


それでも、周りの『何事?』と好奇心をもった視線を感じて、手を掴む。


「いこう」


普段なら絶対に抵抗するだろう彼女も、そんな気力すら失くして、

彼に引きずられるように走った。


どれくらい、そうしていただろうか。

時間にすれば3分に満たないはずだ。


それでも通ったことのないような道を何本か通って、

見知らぬところに出てきて、

そのうえ"天敵"である彼と一緒だったので、とても長い時間に感じられた。


ジェームズが、彼女をベンチに座らせる。

彼もその横に座る。

そのとき一番感情が昂ぶっていたは、思わず、


相手が誰かということも忘れて


彼の胸に顔をうずめた。

ジェームズは最初こそ体をこわばらせたものの、

ぎこちなく手を伸ばし、軽く抱きしめてくれた。


その温もりがにはとてもありがたかった。


何も言わない彼の横でずっと泣き続けていた彼女は、

心行くまで涙を出し、涙を拭いて、

辺りを見回す余裕を取り戻すと、


どうして今までこんなに綺麗な場所を知らなかったんだろう、と驚いた。


そこは丁度庭園のようになっていたが、噴水があるわけでもなく、

適度に人の手が加わっているものの、殆ど自然に任せてあった。

それでもそこはの知っているどの場所よりも美しく思えた。


彼女が落ち着いたのを見計らい、ジェームズが声をかける。


「で、何があったんだい?」


「別に、貴方に教える必要はないわ」


本当に彼に教えるまでもない些細なことだと思って言ったのに、

いつもの癖、なのだろうか、不必要に無愛想になってしまった。


「ひどいなぁ、何もそんないい方しなくてもいいんじゃないか?」


「本当に、ちょっとしたことなのよ」


さっきの言葉が申し訳なくなって、言い訳じみてしまう。


「嘘付け。本当に"ちょっとした事"でそんな風に泣く訳無いだろ」


小さな子供をあやすように、優しく彼は言った。


、いいんだよ、人から見ればちょっとした事だと思っても、

苦しいなら苦しいって言って」


そして、よしよしと頭を撫でる。

どさくさに紛れてちゃっかりと名前で呼んでいるのは、さすが彼と言うべきか。


彼女は、そうされるのと、押し付けていた彼のセーターの繊維がチクチクするのとが

くすぐったくて、わざと不機嫌そうな顔をして体をよじった。


「あなたがマトモな事言うの、初めて聞いたわ」


しかめっ面のまま言うと、ジェームズは苦笑した。


「そりゃそうでしょ、こうやってマトモに話すのだって初めてなんだから」


そう言われてみればそうだ。

なんだか彼とちゃんと話したことが無かったということがひどく意外だった。

さっきまで大イカと同じくらい苦手だった人間とは思えないほど

気を許していた自分に気づき、少し吃驚する。


「それにしても、そろそろ手を離してもいいんじゃないの?」


今、彼とどんな格好でいたかを思い出し、顔が赤いのを悟られないように

気をつけながら、自分から寄りかかったくせに咎める。


「あぁ、ゴメン」


大して彼は、大仰な仕草で、笑いながら手をはずす。

もはや、の顔が赤いのはバレバレだった。


「でも、泣いてるときに誰かに抱きしめられてると落ち着くらしいよ」


しれっとのたまい、もう一度彼女を抱きしめようとする。


「今はもう泣いてないでしょっ、もう、離してっ」


今度は彼女も抵抗するが、彼はあっさり抱き込む。


そうされると、急にまた泣きたい気持ちが戻ってきて、

結局またさっきと同じ状況になった。


「な、落ち着くだろ?」


「…確かに、あなた以外の人だったら、ね」


彼女は顔をうずめたままぼそっと呟く。

あー、あー、あー!もう全く、らしくないわよ、私!

どうしてアイツ如きをこんなに意識しなきゃいけないの?


いつのまにか、短時間にして彼は彼女の気になる人になってしまった。


「どういう意味?」


分かっているのかいないのか、ジェームズはそんな質問をした。


「さぁ」


かすかに笑って、はぐらかす。


「ねぇ、いい加減手を離しなさい、もういいでしょ」


背中に回された手をピシャリと叩くと、

ジェームズはつまらなそうに口を尖らせ、渋々手を離した。


「でも、もう大丈夫そうで良かった。どうしようと思って本で読んだことを実践してみたんだ」


本当に?疑わしげな目を向けると、彼は悪びれる風もなく答えた。


「まぁ、それは建前で本当はただ君に触りたかっただけなんだけど」


よくもまぁ、いけしゃあしゃあとそんなことをいえるものだとが半ば呆れていると、

ジェームズが立ち上った。


「そろそろ帰るかい?道分かんないだろうし送ってく」


「え、あ…うん」


なんだか残念な気もしたが、それを振り払っても立ち上った。

彼はがきいたことのないメロディーを口ずさみながら数歩前を歩いている。


は、お礼をいわなきゃいけないと気付き、

しかし"ジェームズ・ポッターにお礼なんて"という葛藤もあって、

複雑な気持ちで声をかけた。


「あ、あの…」


振り向かずに、ジェームズは、彼女の言葉を遮る。


「お礼とか考えなくていいから、今回は。…あ、でも…」



すると、彼がくるりと振り向いて、

とても、とても綺麗に笑いながら言った。



「今度は笑ってみてよ」


絶対に、綺麗だから。


その言葉を聞いて、の顔面温度は沸点を超えた。

「〜…っ!」

言うべき言葉も見つからず、

叩こうと振り上げた手をぎこちなく下ろす。


そしてジェームズは向きを戻し、に見えないようにして悪戯っぽく笑った。

しかしそう余裕に構えているのも限界で。

心の中で、彼は快哉を叫んだ。















**オマケ(?)**


帰ってくるなり、ジェームズはムカつくくらい上機嫌だった。

「何でか知りたい?ははは、知りたそうだなー、

仕方ない悪戯仕掛け人のよしみでタダで教えてやるよ」


ちょっとまて、俺は教えろなんていってない。

「いやー、今日さー、をビコってたら

いい感じなシチュエーションが発生してね」


さすが毎日ビコってただけのかいはあったな!


そんなことをそんないい笑顔で言われても困るんだが。


「それでさー」


喰ったのか?

そういうと、頭をはたかれた。

くそう、アイツ今本気で殴りやがったな!


「でもとかなり密着出来たけどね。あと一歩って感じだったな」


そりゃお楽しみでしたね。

そう嫌味を言うと、嫌味が返ってきた。


「ああ、シリウスも早くいい人見つけなさい。なんなら紹介してやろうか?

変身術のマドンナ、マグゴナガルなんてどうだ?」


ジェームズ、お前いつか殺してやる。


「それにしても人生最良の時間を過ごした。つーか俺もう手洗わねぇ。

このままの感触を残しておくために」


そう言ってうっとり自分の手を見つめるさまに

ホグワーツ主席の面影は皆無だ。

要するに、ただのアホ。


俺は怒るのもバカらしくなって、止まっていたプレイボーイをめくる手を再び動かした。









55 今度は笑ってみてよ * 猫良なのか
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