10月31日






・・・・−・・・ト・・・・・・・




・・ル・・・・・・・モ・・・・・・ー・・ト・・・・












「・・・・・・・・・」




声が――――――――――――





「やめ―――――ろ―――――!!!」










月さえも死ぬ夜に、漆黒の闇が歌う。


音の無い鎮魂歌を―――――――











「ジェームズ?どう――――・・・」

「しっ・・・」


素早い動作で口に指をあて、静寂をうながした。

夫の、これほど険しい表情を見たことがない。





「ハリーを連れて、奥へ・・・さあ、早く―――――」

有無を言わせない、きっぱりとした口調で告げる。






できる限りの優しい笑顔を見せた。

不安を、恐怖を、死を、見せてはいけない。




唇へ、額へ、頬へ、優しくキスをする。

「ジェームズ・・・・・」

「さあ、リリー・・・・・行くんだ」



リリーはゆっくりと後ずさり、やがて後ろを振り向くと走り出した。


悲痛に顔がゆがむ。

涙が、止まらない――――――







完全に部屋を去るまでリリーを見守り、そして入り口を睨み据えた。


全身に鳥肌が立ち、体は震え続けた。


――――――――――来る。






耳を突く雷鳴と目を焼く閃光、そして同時にすべての窓のガラスが割れた。




吹き荒れる風にガラスの破片が舞い、頬や腕、肩が数ヶ所、切り裂かれた。

しかしそんなことはもう、まったく気にならない。

ただ一ヶ所を、そこにいるただ1人を睨み続けている。






ドアは、跡形も無く吹き飛んでいた。






「――――どこだ」

闇から唸るような声に、空気が恐怖をまとい、震える。





「ずいぶん派手な演出だな―――――」






「ヴォルデモート。僕はここだ」





切り裂くように冷たい視線が、ジェームズを貫いた。



「貴様に用など無い」




「あいにく、そうはいかない―――――――!」


2人の放つ死の閃光が、部屋の中心でぶつかった。







「ハリー・・・・・」




ここへたどりつくまでの時間が、まるで永遠のようだった。

乱れた息を整え、ハリーを抱き上げる。


まだわずか1歳の、ハリーの安らかな寝顔にリリーは少し冷静さを取り戻した。




温もりを惜しむようにハリーをベッドに戻し、自分の杖を手にした。



杖の先をハリーに向け、リリーが静かにささやく。


暖かな光がハリーを包み始めた。

光は少しずつ少しずつ小さくなり、ハリーの中へと吸い込まれてゆく。



リリーは魔法をささやき続けていた。


遠くで、破壊の音が聞こえた。


始まってしまった・・・・・時間が・・・もう、時間が――――――――








「ふん・・・ダンブルドアの秘蔵っ子というわけか。少しはやりおる」



「このわしを傷つけるとはな・・・・・だが――――――」

「それはどーも・・・・・」


息が上がる、何度目かの攻撃で、肩と足に負った傷が深いようだ。

自分にできる限りの魔法で、やっと相手はかすり傷を負ったらしい。





その圧倒的な力の差に、心の中で悪態づいた。





「そろそろ限界ではないか?」



「ずいぶん・・よくしゃべるんだな・・・・・」

大きく息を吐いて、余裕を出すことに専念した。

そうしないと、膝が崩れそうだ。

時間を・・・できるだけ時間をかせぐんだ。




「貴様のような輩がわしに跪く・・・己の力量を思い知り、絶望の淵に死にゆく。

 わかるかね?この極まりなき快感が・・・・」




ニヤニヤとおぞましくヴォルデモートの顔が歪んだ。




「誰が、跪いているって?お前ほど醜悪なものはないと考えていたところだ」





ぴたりとヴォルデモートの表情が無に戻った。



「さあ茶番は終わりだ。残念だ、ジェームズ・ポッター・・・もう死ぬがいい」



最後の攻防が始まる。






もし、警告通りに奴が来ても、なんとかなると思っていた。


刺し違えても、リリーとハリーは護る。


そうすれば、護り切れないものなどない・・・そう、信じていた。





僕たちに不可能など無いはず――――そうだろう?


シリウス。








家の中すべてを、緑の閃光が駆け巡る。



耳を刺すほどの沈黙が訪れた。





部屋の入り口に、ただ一人が立っていた。

ニタリと気味の悪い勝利の笑みを浮かべている。

その子どもさえ殺せば――――わしは最強だ。






「あの人を、殺したのね?」


「すぐに後を追えばよい。貴様もその子どももだ」




ハリー、あなただけは、絶対に死なせない。


でも私は・・・ジェームズのいない世界なんて・・・・・





だから、これでいいんだ――――――










・・・・−・・・ト・・・・・・・

・・ル・・・・・・・モ・・・・・・ー・・ト・・・・



こ こ は ?


白いヴェールがかすかに揺れる。



鏡だ。

鏡に自分が映らない。不思議に思い、そっと覗きこんだ。




リリーが、ヴォルデモートと戦っている。


リリーの後ろには、ハリーが・・・・・



なんてことだ。






「・・・・・・・・・」






声  が    ――――――――もど  れ ――――





「やめ―――――ろ―――――!!!」










月さえも死ぬ夜に、漆黒の闇が歌う。


音の無い鎮魂歌を―――――――













 END














50 10月31日 * 南音
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