| 44 スニッチ |
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| 初めて彼を見たときは、すごいなって思っただけ。 なんか、リリーと同じ主席らしくて、すごくクィディッチが上手くて。ただただ、吃驚した。気が付けば、目で追っていた。何処が自分と違うのか、それを知れば、自分も彼のようになれるような気がして。 驚いたのは、1つ。 彼を目で追うようになってから、クィディッチというものが、自分の中で寮杯に関係してくるだけのものではなくなった事。彼を見ていると、スニッチを手で遊ばせて、30cm位離してから片手でキャッチする。すごいなって思う。 たまに、箒に乗るようになった。 飛行術では申し訳程度にしかやらないから、授業の一環なのだと思っていたけれど、違った。 風を切る爽快感と、自分の手になじむような箒が心地良い。速いかなんて、わからない。ただ、気持ちよかった。ホグワーツ城が見えるような位置にまで、飛んでみれば自分が支配者になったかのような、不思議な感覚に襲われた。 その度に、ポッターという存在が自分の中で確実に何かを作り上げていくような感覚は、気付かない振りなど出来ないくらいに私を侵食していった。 「!」 声は、たぶんリリー。 彼女の声は可愛らしいし、私はまだ若いから、そう簡単に友達の声なんて忘れない。 「聞いたわよ、シーカーをやることになったんですって?」 興奮した彼女を落ち着かせるには、どうしたらいいのか。 馬鹿みたいにそれだけを考えた。 開いた教室に勝手に入る真似なんて、優等生の彼女はしないのかと思っていたら、案外普通の反応だった。それに拍子抜けしたなんて、ちょっとだけ彼女には言えない。だって、彼女にあまり興味を持っていなかったことを知られてしまうかもしれないから。 「レイブンクローのシーカーになるんでしょう? 素晴らしいわ。」 頬の赤くなったリリーは息も弾ませていた。 「ありがとう。」 自分に出来る精一杯の笑顔を顔に浮かべてみる。 そうすると、決まって彼女は眉間に皺を寄せる。彼女いわく、無理して笑う必要なんてないそうだ。でも、嘘でも笑顔とか、言葉とかが欲しいことってあると思う。 きっとリリーは違うことを言っている。そして、私、それに気付いている。ただ、天然ぶったり、無関心のふうを装っていたりしたほうが楽。無関心なのは本心だけど。 「ジェームズの事、コテンパンに負かしてやって!」 確か、ジェームズはグリフィンドール。リリーと同じ寮ではなかっただろうか? 「何でも出来るっていうあの顔が、嫌なの。」 そんな顔を、ポッターはしていただろうか? 確かにそうかもしれない。でも、あれは実力に裏付けされた自信。そこらへんに、いっぱい転がっているプライドの塊とは、訳が違う。そして、リリーはそれに気付いている。その上で、こんな風に言っている。わかるような、わからないような。リリーの気持ちは、私からしてみればとても不思議だった。でも、それよりもずっと、わからないはずなのにわかったような気がする自分自身が不思議だった。 「私は私に出来ることをやるだけだよ。」 ひかえめに言う。 寮の人達に何かを言われた時も、そう答えていた。ポッターのように自信があるわけでも、プライドの塊でもない私はそう答える。美徳でもなんでもない。失敗を恐れている弱いものの証。何かを言って、失うのが怖い。臆病者なんだ。 「頑張ってね。」 私のことを応援しようとする気持ちを表そうとしただけで、ジェームズのことを悪く言うつもりなんてなかったであろう優しい彼女に頑張らなければいけないなと他人事のように感じた。 明日試合があるとなっても、やはり私の関心はあまりクィディッチに向いていなかった。 ただ、ポッターと同じ試合に出れるのだとか、彼がどんな風に飛ぶのか。物語の続きを待つ子供みたいに、ワクワクしていた。 「、頑張ってね! そして寮杯を狙うのよ・・・。」 当事者よりもずっと力んでいる同室の女の子に、曖昧に微笑んで見せた。 「やってきました。聖戦の日が。今日はグリフィンドール対レイブンクロー。今日もまた、ジェームズ・ポッターは素晴らしい箒捌きを見せてくれるのでしょうか? レイブンクローは・を加えて、どんな動きを見せてくれるのか、誠に楽しみです!」 実況中継の声は、いつも観客席で聞いているものよりも聞こえずらかった。 窮屈な箱に入ったスニッチは、自由を求めて飛び立っていく。 高らかに、笛の音が鳴った。 下に広がるのは観客からの声援と箒が風を切る音。 胸が少しだけ熱くなる。 耳にきんとする痛みをやりすごして、上空から見下ろす。 ポッターも同じようなことをしていた。それに、少しだけドキドキ、した。 だから、迫り来る危険にすぐ反応出来なかったのかもしれない。 1mまで近くによってきたブラッジャー。 右に飛んでやり過ごす。あと少し遅かったら、頭に当たっていたかもしれない。そう思うと、先ほどまで浮上していた気持ちは私の中で、必要の無いものだと判断が下された。 ブラッジャーの場所を確認をしようと思って回りを見渡す。その時、 金色が、俊敏に動くのが視界に入る。 色褪せた絵画のようだった世界は一変し、鮮やかに動き始めた。 瞬く暇が、あるはずもなく。 「惜しかったね。」 「そうだね。」 私は、肯定しながらも、そんな風には思っていなかった。 楽しかった。 スニッチを奪い合うという時間を共にした。 彼の心に、私の存在を刻めたかもしれない。そんな嬉しくて、非生産的な感情がそこにはあった。 「。」 あまり聞いた事のない声。 私のことを呼んだことがないであろう声。私が、知らないはずがない声。 「ポッター?」 私が彼を呼んだ途端、こちらの様子を伺うポッターがいた。まるで、私が怒っているかのように。 そう考えると、自分が眉間に皺をよせていたことに気付いた。彼が私を呼ぶことなど無いだろうと思っていのだから、当然のこと。彼にとってはそうでないのかもしれないけれど。 「今日の試合、見事でした。」 口元に笑みを浮かべる。 その表情の転換は、スリザリンに所属するもののように、狡猾な印象を与えたかもしれない。 「うん。君もすごかったね。すごく速いんだね。もし、僕がスニッチを見つけるのがもう少し遅かったら、負けていたかもしれなかった。」 「ポッター。"もし"なんて言ってもしょうがないと思う。でも、嬉しい。ありがとう。」 私がそう言うと、彼は下に視線を逸らした。 その行動は不思議だったけれど、明日の授業の予習をまだしていなかった私は、早く部屋に帰ってしまおうと、別れを告げようとした。 「それじゃ、おや・・・」 「、今度一緒に練習しないか?」 私の言葉を遮られた。 彼の目にやどるのは、キラキラというよりは、少し禍々しいものを感じる。ギラギラというほうが似合っているかもしれない。 「敵情視察ってこと?」 「ち、違うよ。」 焦ったような声が面白かった。 私が知っているポッターはそんなことはしない。そんなことをしなくてもいいような実力があるからだ。 私を練習に誘うのがどうしてかはわからなかったけれど。 「いいよ。」 受けたのは、断る理由なんてなかったからだ。 「まさか、ジェームズが貴方との仲を取り持とうとしていたなんて思いもよらなかったんだけど。」 本を読んでいた彼は顔を上げた。 しかめ面ではないけれど、あまり上機嫌ではない表情。彼のとりまきなわけではないし、別に怖いともなんとも思わないけど。 「それは、お前が鈍感なだけだろ。」 鈍感・・・。 「それは違うんじゃないかな、シリウス。」 突然聞こえてきた声に、目が覚めたように起き上がるシリウス。声の主は、彼が1番良く知っている人。 「あながちはずれではないと思うけど?」 臆せずに彼を見据える。 何も見逃すことがないような緑の瞳が私をとらえた。 「鈍感なわけではないよ。はかなり人の感情に聡い。だけど、興味がないとそれも意味がなくなるじゃないか。」 彼はかなり洞察力が優れていると思う。リリーといるときとは違って、緊張させられるけど。 「それは、が俺に全く興味がなかったってことか?」 「事実、なかったわ。」 その言葉は、あまりにも直球だった。 ジェームズは吹き出し、苛立ったシリウスは髪をくしゃくしゃにした。 「じゃ、お前の興味のある人物って誰なんだよ。」 余裕がなくなるとすぐに本音がでてきてしまうシリウスは現在、私のお気に入りのおもちゃだった。 「いやだ、シリウス。その時貴方に興味がなかっただけで、今もないだなんて言っていないじゃない。」 それだけで目の色が変わるシリウスは犬みたいだ。是非、首輪をつけて芸をしこんでみたいと思う。 なんて可愛いんだろう。私はシリウスに興味があるなんて一言だって口にしていないのに。 私がシリウスで楽しんでいることを知っているジェームズは何も言わない。時には彼も一緒に組んでシリウスで遊ぶ。 「僕には興味ないのかい?」 「浮気?」 答えたくないわけではないけど、好んで答えたい話題ではない事は確か。だから、はぐらかす。 「まさか。」 ジェームズはおどけてみせたけど、答えろと目が明らかに命令していた。 ふぅ、と溜息を吐くと、私はゆっくりとした口調で話し始める。 「私が1番興味のあるものは、スニッチよ。それで、スニッチに興味を持たせるきっかけを作ったのはジェームズ、貴方。」 人差し指で、人を指してはいけません。幼い頃の教えを見事に破って見せた。 「そうだったんだ。あの頃僕を見ていたのはそういうことなのかい?」 「恋愛とかじゃなかったのは確かね。」 「僕は猫が好きだな。興味がつきることはないし、可愛いし、見ていて飽きない。だから、、君の事も好きだよ。」 「ありがとう。」 告白というやつなのだろうか。 でも、告白という言葉はこの年代が使うと、得てして恋愛事に持ってきがちだが、犯罪者が罪を語ることも、告白という。だから、愛の告白とかつけるべきだと思う。 もちろん、これは愛の告白などではない。 言うなれば、あれだ。研究結果の告白。興味の対象の。 「見えているのに近づけなくて、そんな私を嘲笑っているスニッチみたいなスタイルを崩さない貴方が好きよ。」 |