「ジェームズ!お腹減ったよお」














 カワイイヤツ

















「なんだ、またかい?しょうがないなあは」
呆れたように眉を下げてため息をつくジェームズ。
ポケットに浅く手を入れ、中からピンク色の包み紙で覆われた飴を取り出した。
「はい」
指先だけで摘んでに差し出す。
途端には顔を綻ばせて受け取ると、ジェームズに抱きついた。
「ありがとうジェームズ!大好き!」
ぱっと離れて包み紙を外すと、出てきた大きめの飴玉を口に運ぶ。
途端にきゅんとするような苺の甘酸っぱさが口中に広がって、目が細まる。
幸せそうな顔のを見て、自然とジェームズも顔を緩めた。










「カワイイやつ・・」















しばらくその様子を笑顔で見守っていたジェームズだったが、ふと気がついたように顔を顰めた。
「・・そんなにおいしいかい?それ」
ジェームズが少し訝しげに聞く。
は口を開けると飴が逃げるとでも思っているのか、ぶんぶんと首を立てに振った。
ジェームズはまだポケットに残る大量の飴に少し目をやる。
「甘いものって何がいいのかわからないなあ、僕」
げんなりとした表情でに目を戻してから、困ったように笑った。
「ふゃあなんでいっふもあみもっへふの?」

の口には大きすぎる飴が口の中で転がる。
「はは、、話しは飴食べ終わってからにしようか」
にこっと笑っての頭を撫でると、再び廊下を歩き始める。
その後姿が少し寂しそうで、しばらくの間、飴を転がす舌が止まっていた。






「 じゃあ、なんでいっつも飴もってるの? ねえ ジェームズ 」
















秋風が少し肌に冷たく、持っている花束は色の無い世界で一層寂しげになった。
花束を持つ手はかじかみ始めて、肩も震え出す。

数日前人々が恐れたあの人が死んだ、否消えたところは余りにも静かで、
まるで何事も無かったかのように高くなった空から太陽が見下ろしていた。
ただ唯一違うのは、がこの扉の前でいくらチャイムを鳴らしても、
華のような笑顔で飛んでくる親友や、いつものように右のポケットを膨らませて笑う彼が居ない事。
どれくらい経っただろうか。
は冷たくなったドアノブに手を掛けると、力なくそれを引いた。

中は殺伐としていて、辺りには割れた花瓶や剥がれた床板が散乱していた。
初めて入る彼の家。本当はもっと綺麗に掃除してあって、
きっと家具は可愛いアンティークで揃えて居たんだろう。

奥へ進むと、いくつかのドアが見えた。
ドアにはそれぞれアルファベットが彫られていて、壁が焼け焦げていたりしなければ、
なんて素敵な家だろうと口元が緩みそうだった。
手前にあった「 J 」と彫られたドアに手を伸ばす。
ノブが壊れでもしたのか少し重いドアを引いて中に入ると、彼らしく、可愛げのある大人の部屋だった。

やっぱり家具は所々壊れていて、何故か窓部分の壁が殆ど吹っ飛んでいた。








「やだなんでこれ・・・」
ふと壁を見て見つけたホワイトボード。
そこにはまだ学生だった頃の私達が、遮られる事も無く幸せいっぱいの表情でこちらに手をふっていた。
中にはやっぱり彼も、居る。
この小さな枠の中では彼はまだ動いていて、優しく微笑む瞳も輝いていて。
満面の笑みで手を振ってくる私達に、こちらも笑顔で返せたのなら良かったけど。
今の私には眉を寄せて涙を堪えるしか出来なかった。

「うわ・・・これってクリスマス?」
右端にとめられた写真に目を向ける。
中の私達は色とりどりクリスマスツリーをバックに、私とリリーはトナカイ、
シリウスはサンタの乗るソリ、ジェームズはサンタ、リーマスはプレゼントを貰う子供の役の仮装をしていた。
リーマスはただいつも通りにしているだけだけど。
その時シリウスが不公平だとずっと文句を言ってたのを覚えている。
寄せた眉はそのままに、少しだけ上がった口角。
そのままこみ上げる思いを流すように下の写真に目を移す。

中ではこれまた仮装した私達の姿。
吸血鬼の格好をしたジェームズ達に、お姫様の格好をした私達。
そうこれは最後の年のハロウィンの日。
毎年皆で合わせた衣装を着ては、周りの注目を集めていた。
懐かしい記憶に意識を飛ばしていると、ふと目に入った大きなピンク色の袋。
写真の中の私が幸せそうに抱きかかえている。
良く見ようと近づいて気付いた、袋のプリント。
大分掠れて、見づらくなってはいるが、確かに確認できる大きな苺のマーク。
思わず あ と声が漏れる。

ハロウィンになると、必ずジェームズがくれた苺の飴大袋1個まるまる。

毎年この日が楽しみで、貰ったらしばらく顔が緩んでた。
写真の中の私も至極顔を緩めていて、口元が少し膨らんでいた。
「間抜けな顔」

ふっと自嘲気味に笑って、その場に座り込んだ。

「ジェームズ・・どうしよう、泣かないって決めたのに」
フラッシュバックしてくる数々の思い出達が愛梨の心を押しつぶすように圧し掛かった。
内から込み上げる感情に呼吸が乱れる。
「ごめんね、ちょっと壁借りる」

壁に額を押し付けて、目をつぶる。
ひんやりとした壁は、込み上げてきた熱をやわやわと落ち着かせてくれるようだった。
瞼の裏に浮かぶのは、やっぱりジェームズの笑顔ばかりだった。
いつからか抱いてしまった想いを殺すために、卒業してからは誰とも連絡をとらなかったから、
まだ私のなかの彼は制服を着ていて、その瞳にはいつもあの子を映している。
だから、愛しいと気づいてからも変わらずに友達でいた。
頭のいい彼のことだから、気づいていたのかもしれないけど。

少し落ち着いたところで額を剥がし、そのまま倒れるように横になった。
間近に見える壁に少し亀裂が入っていて、眉を寄せ反対に向き直す。
ふと見えた大き目のベッド。

















「・・・・・・・?」


ベッドから垂れ下がったシーツの横から微かに姿をのぞかせる白い何か。
手をついて身を起こし、四つん這いでベッドに近寄る。
ゆっくりとシーツをめくってベット下を覗くと、さっきよりも鮮明な白を
纏った少し大きめの袋。よく見れば奥にもいくつか転がっている。
手を伸ばして何とかひとつを掴む。
取り出したそれは郵便物のようだった。白い包みがくちゃくちゃになっている。
ふと宛名に見つけた 「」 の文字。




「私宛・・?」




はっとしてベッドの下に潜り込み中に転がっていた包みを全部取り出す。
やっぱりどれも宛名は 「」 
住所はもう随分前に引っ越した実家のものが書かれていた。
当たり前に全部返送されてきてるようだ。
ジェームズの謎の行動に首を傾げながら包みを開ける。







「・・・・・っ!」



白に包まれたピンク色の袋。取り出すと先ほどみた大きな苺のマークが大きく印刷されている。
直ぐにほかの包みに手を伸ばした。

これも・・・




これも・・・




どれも中には見覚えのある苺の飴大袋まるまる

震えて自由の利かない腕でゆっくりと袋を裏返し、送られた日付を見る。














「ああ・・もう・・・泣かないって決めた・・のに」






今まで殺していた思いが弾けて、溢れ出し頬を伝った。












Oct/31    Happy halloween   "Most superb present for you"














「馬鹿だなジェームズ・・・全部、戻ってきたんでしょ?・・・なんで・・毎年毎年」

袋をあけて包み紙を外し、口に含む。広がる苺味が、心を締め付けた






「ほんとばかだよ・・・ほんとに・・・」






ほんとに


カワイイ・・やつ―――――― …



















































30 カワイイヤツ * 愛梨
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